私は父、私、弟と医者の一家です。開業医だった父の影響はありましたが、元来教師になる夢もあり、最終的に「医師としての仕事は医療と共に教育である」という母の言葉に医師の道を歩むことになりました。
専門を決めるときに、心身共に診られるという観点から心療内科、精神神経科、脳神経外科なども考えましたが、結局老若男女問わず患者さんの一生に付き合え、心身ともに内科的治療も外科的治療も行える耳鼻咽喉科・頭頚部外科を選びました。なかでも頭頚部癌患者さんの治療を専門に病院での勤務医を務める傍ら、日本心身医学会やホリスティック医学協会のそれぞれ専門医、理事としてかかわってきました。10年前に究極の統合医療(ホリスティック医学)の実践であるアントロポゾフィー医学を学ぶためドイツ・シュツットガルトへ4年間の留学の後、帰国しました。
山本百合子先生との出会いは、以前勤めていた川崎市立病院の元の院長に「今後一緒に頑張ってほしいドクターに引き合わせたい」と3人の夕食会を開いてもらったのがきっかけですが、それは20年以上前のことです。
その後色々な場面でご一緒させていただき、現在も共にアントロポゾフィーを学んでいます。山本百合子先生の何かのお役に立てたら、と働かせて頂くこととなりましたが、国内でも有数なアントロポゾフィー医学を実践することのできる、このすみれが丘ひだまりクリニックで共に仕事をさせていただけることを光栄に思っています。
アントロポゾフィー医学を一言で説明することは非常に難しいのですが、あえてまとめると「現代西洋医学を基礎に、そこではあまり注目されない人間の身体以外の要素、すなわち身体と違って見えないながら重要な心や魂、人間を広く取り巻く環境およびそれらと身体との関連性等の観点からの診断や治療を更に加えることで行う拡大された医療」と言えばよいでしょうか。
西洋医学はややもすると人間の身体ばかりに目が行くのですが、本来人間を生かし、健康を保っていくために重要な環境要因(その人の生きている土地、地球、宇宙、食物や人間関係等々)、その人が内外の状況に対してどのように心的に対応するか、生まれてから今までどのような信条を持ち、魂的な成長をしてきたか等々が関与しているのです。
それぞれの要素に働きかけていくことで人間丸ごとを扱うことのできる医療になると考えています。この医療はヨーロッパ、特に中央ヨーロッパ(ドイツ語圏)を中心に世界各地で広く実践されており、その効果も実証されています。
がんにかぎって言いますと、西洋医学的治療は非常に重要です。既にがんが進行している、あるいはどうしても他の疾患の合併や、年齢的な問題等からこれらの治療を受けられない患者さんは、アントロポゾフィー医学を主体として治療を行い、生活の質を高めたり、時に進行を遅らせたりする効果も期待できます。
しかし、それ以外の西洋医学的癌治療の受けられる患者さんに関しては、アントロポゾフィー医学と並行して行うことにより、治療の副作用を軽減したり、生活の質を上げる効果も期待できます。それによりがん治療の継続を助け、治癒を促します。
また、初期治療が終了した後の経過観察期間の再発予防にも非常に有用といわれています。