【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その2)
「早期からの緩和ケアで生きる希望が与えられるクリニックにしたい」
浦尾弥須子先生 インタビュー 第2回
浦尾弥須子
東京女子医科大学卒業
耳鼻咽喉科全般 特に頭頚部外科(頭頚部癌治療)
心身医学的治療
疑問にお応え頂くため、早期緩和ケアを提唱している当院の浦尾弥須子先生と看護師の鶴田史枝さんが質問にやさしく答えてくれました。
第2回は「ひだまりクリニックにいらっしゃる緩和ケアの患者さんについて」語っていただきます。
聞き手:現在、ひだまりクリニックで浦尾先生の初診を受けられる方はどのような状況でいらっしゃる方が多いですか?
浦尾先生:たとえば、「手術をしたのだけど、再発予防として何か良い方法はないでしょうか?」という人や、もう治療できない、あるいは根治手術の対象でないといわれた人、さらには予後が悪いがんだと言われた人たちなどです。それでも諦めずに半信半疑で家族に連れてこられ、「本当にそんなのが効くのか?」という人が半分、アントロポゾフィーを知っていて、何か有効な治療法があるのではないか?という思いで来る人、知人から特殊な良い治療があるらしいと聞いてこられる方など様々です。
聞き手:アントロポゾフィーを知らない人もいらっしゃるのですか?
浦尾先生:大勢います。知人からの勧め、家族が何らかの形でアントロポゾフィーについて(例えば国内のシュタイナー学校等で)関わっている場合や、私の別の病院での診療を通じ、ひだまりクリニックを紹介しているケースなどです。一般的な病院では行われていないけれど、ひだまりクリニックだとできる治療法がたくさんあります。
一般的ながん治療と同時に併用すると治療の効果が上がるし、高いQOLを保ちながら治療のできる可能性がありますよ、と言ってご紹介しています。当然ながら地域的な制限はあるかもしれませんが、かなり遠方から来られる患者さんも多いです。
鶴田さん:ヨーロッパでは「ヤドリギ(ミステル)製剤」ががんの代替補完療法として広く知られているので、アントロポゾフィー自体を知らなくても「ヤドリギ(ミステル)製剤」を求めてやってくる人もいます。しかし、ここではアントロポゾフィー関係の方やそういう方からの紹介の場合が多く、まだアントロポゾフィー医療や「ヤドリギ(ミステル)製剤」の知名度は高くないですね。
浦尾先生:現在の病院で行われる「早期からの緩和ケア」と言っても、まだそれ自体を取り入れている病院はほんの一握りにすぎませんが、内容としてはカウンセリングや集団行動療法ぐらいですし、再発予防といっても一般的な補剤といわれる漢方なども使われるようになって来ていますが、それ以上のものはありません。そういった中で、アントロポゾフィー的な治療はそれぞれの患者さんに合わせたオーダー治療をすることができるほどの選択肢を持っているのはすごいことだと思います。
たとえば、予後不良が当初から予想されるがん患者さんは術後抗がん剤をずっと続けている人もいますが、初期治療が有効とであったと考えられる人でも5年間は再発の可能性があり、外来通院をし、時々検査をしながら経過観察をしていくのですが、この間はデータを見ながら経過を見るだけです。もちろんそれによって再発の兆候を早期にキャッチでき、治療に結びつくという重要な意味は持っているのですが、予防的な治療をしているわけではないので、出てしまったらまた治療を開始するというだけです。この間に行える治療はほとんど無いのです。しかし、アントロポゾフィー医学的には初期治療の終わった後の経過観察期間にやれることっていっぱいあるのです。その患者さんがそれを使ったことで再発を完全に予防できるかどうか確証はできませんが、理論的にも、また今まで欧米で集積された治療成績結果からもその有用性はある程度明らかであるし、ただ経過を見てもらっているだけでなく、患者さん自らも自分の病気に正面から向かいあって予防対策を行っていくことはその後の自信や希望にも繋がって行くものだと思うのです。
ドイツで見てきた患者さんについて言えば、当初から非常に予後の悪いと予測される患者さんであっても、QOLを良く長生きしている人が沢山みられました。日本でも一般医療とアントロポゾフィー医学を融合させることでそのような状態が作れればいいなと思うのです。そのためにも早期緩和ケアの真の考え方がもっと広がったらいいなと思います。具体的なアントロポゾフィー的がん治療の中心は抗がん免疫剤といわれる「ヤドリギ(ミステル)製剤」ですが、それだけでなく更にオイリュトミー療法やアントロポゾフィーの看護師さんたちの行ってくれるリズミカルアインライブングや様々な冷罨法、その他の外用、内服、注射の薬物療法、芸術療法や言語治療など様々な選択肢からその人に最も適したオリジナルの治療法を作っていけるのです。
聞き手:ちなみにホスピスの現状ってどうなのでしょう?
浦尾先生:先日見学に行ったホスピスのある大規模一般病院では、ホスピスに入る患者さんの9割以上は外部から入ってくるということでした。病院内にホスピスがあっても、診断の早期から緩和医療をと勧められて一緒に診ていくというのは難しいようです。主治医は治療方針を自分で決めたいわけです。横からあれこれ言われるのは困る、あるいは目に見える形ですぐに効果の違い分からない(患者さんのQOL的には明らかに違うと思いますが)治療に対して依頼をする必要性を感じないのが本音でしょう。
むしろ周辺の病院から「これ以上の積極的治療はないので、そろそろホスピスに入ったら」と紹介されるケースが多く、緩和ケア科、あるいはホスピスを持つ病院においても、院内での早期からの緩和ケア介入はかなり困難なことのようです。
それこそ体の病気の治療は現在のまま病院でやってもらって、早期緩和ケアはひだまりクリニックでやったらいいのじゃないか、という話です。今の例のように同じ施設に緩和ケア科があるから一緒に診ていけるというわけではないので。
聞き手:外の病院との連携で困ったことありますか?
浦尾先生:ここでの治療は一般病院でのがん治療と並列で行うことが理想的なのですが、同時行うことに抵抗を感じるドクターもいると思います。自分の知らない治療を同時に行うことで副作用がでたり、問題があったときにその原因がどちらにあるのか判りにくくなったりするのではと心配するドクターから、どん名治療であれ、定形外の治療は認めないドクターまで様々ですが、ミステル治療の副作用はごくごく軽微で頻度も少ないものなので、前者のドクターとはコミュニケーションをよくして、情報交換を密におこなうことで対応できる場合が多いです。
しかし後者の「そんなわけのわからないものを使用するというなら、自分のところでは治療はしない」などと言われてしまうケースもあるかも知れません。今まではとくに予後不良が予想される患者さんが多かったこともあり、少しでも有効な手段があるなら加えてもよい、と言ってくれるケースがほとんどでした。
次回はがん治療に関してのお話です。
【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その1)
【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その2)
【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その3)