すみれが丘ひだまりクリニック

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【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その3)

「早期からの緩和ケアで生きる希望が与えられるクリニックにしたい」

浦尾弥須子先生  インタビュー 第3回

浦尾弥須子
東京女子医科大学卒業
耳鼻咽喉科全般 特に頭頚部外科(頭頚部癌治療)
心身医学的治療

 

疑問にお応え頂くため、早期緩和ケアを提唱している当院の浦尾弥須子先生と看護師の鶴田史枝さんが質問にやさしく答えてくれました。

第3回は「がん治療について」語っていただきます。

 


 

聞き手: 治療を受けようとされる人はどういう人が多いですか?

 

浦尾先生:一般的な西洋医学的がん治療の限界がわかっていて、今自分にできることを何でもしたいと思う、例えば病状が既に進行しているにも関わらず小さいお子さんがいたり、障害者をかかえたり、いろいろな家庭の事情などでどうしても長生きしなければと考える患者さんや、初期の治療が終了後の再発を予防したい、あるいは今後の人生や治療中のQOLを高く保ちたいというモチベーションの高い患者さんだったりします。

本当に末期の状態で医学的にはもう治癒を望むことは無理と考えられる方がみえることもあります。でもそういう方も当院の治療の適応だと思っています。

ある有名な女優さんで全身がんと言われてのちも大変活躍しながら長生きされた方がいらっしゃったと思います。本人の心の持ち方や周囲のサポートはその予後に非常に関係しています。

がんからうつになって免疫が下がることでさらに病状が悪化したり、再発や転移の誘引になったり、またうつから自殺してしまう人もいます。そういう事を防ぐのも早期から介入するという理由でもあるんです。逆に末期がんの患者さんであってもできることは沢山あります。一人で誰にも理解されず、主治医にはもうする治療はないと言われて、主治医としてはそれで済むかもしれないけれど、患者さん本人はとてもつらいですよね。家族もつらいけど家族がいない人などは自暴自棄になったり、悩んで自殺したりするということもあります。

「早期からの緩和ケア」というのは、従来からの「緩和ケア」のように末期がんの人たちのためだけにあるものとは少し違うコンセプトのものだという事と、西洋医学的な治療しかがんの治療はないのか?というとそんなことはないんだよ、ということを知ってもらう必要があります。

 

西洋医学的な治療は悪いところを切り取り、死滅させることで治しましょう、という考えです。一方アントロポゾフィー的な考えと方向はちょっと異なります。がんは頭がよくって、自分だけは生き残ろうとするんです。殺してもまた出てくるという悪循環から抜け出して、患者さん全体の残りの免疫力が高まれば本人のQOLは高まり、西洋医学的治療で減少したがんをやっつけることもできるんですね。

 

聞き手: 治療に関する印象的なエピソードなどあればお聞かせください。

 

浦尾先生:ご夫婦で別々のがんを患っており、二人でひだまりクリニックにかかられている方もいます。奥様は既に発見された時には手術もできない状態でしたが、化学療法と当院での治療を平行して行いながら、疾患としての平均余命を何倍も、元気に仕事に趣味に過ごしておいでです。今できることをすべて行っていると考えるとそれが自信になるし、何かあっても頼れる人が何人も(いくつもの施設に)いるから大丈夫と考えると、非常に心の支えになっているともいわれていました。

 

聞き手: 治療するにあたって何か特別なことはありますか?

 

浦尾先生:初診時にここでの治療をする際、他の西洋医学的な治療も続けてください、という誓約書に署名してもらいます。一緒に続けることに意味があります。自分の力では制御できず大きくなってしまったがんをいきなりひだまりクリニックでの治療だけで治そうというのはちょっと無理があります。

2008 年に肺がんの再発例に関して、早期緩和ケアを併用した場合は、併用しなかった場合に比べ有意にQOLが上昇し、生存期間が延長したという結果が欧米の著名な医療雑誌で取り上げられ、緩和医療の世界でも注目されてきています。気休めかと思われていた緩和ケアが、実はそうではないんだ、となり始めています。とはいえ、先ほども言いましたが、日本においてはまだまだ啓蒙が足りないのが現状です。緩和ケアという言葉を聞いただけで縁起が悪いと嫌がる人もいます。どうやったらもっと前向きで建設的なイメージになるのかが今後の課題と言えるでしょう。

 

鶴田さん:早期緩和ケアでは、診断がつく前後から関わっていくことで、患者さん自身が病気にどう向かい合っていくのかを考えたり、治療の意思決定をしたりしていくことが出来るように、バックアップしていくことが大切ではないでしょうか。みなさん、当然
不安なのですが、早期であればいろんな治療の可能性があります。一番不安な時に治療を選ばなければならないのです。ここではそういう時に相談ができます。そして、私たちが提供できる治療の一つとしてヤドリギ(ミステル)があるということですね。苦痛を取り除くのに、体の苦痛だけでなく心の苦痛に対しても色々な療法やケアを通してサポートすることが出来るというのが、ここでの緩和ケアのメリットです。

 

聞き手: 看護からの緩和ケアはどのようにサポートできますか?

 

鶴田さん:早期緩和ケアに関しては、日本でも『外来で告知を受けた時から、ケアに入っていけるように』と言われてますが、実際はむずかしい状態です。このひだまりクリニックでの緩和ケアでは、心と体の両方に関わることができます。普通の病院では看護師は忙しくて患者さんの傍らにいる時間をなかなか取れませんが、ひだまりクリニックではリズミカルアインライブングや各種の湿布などの外用手当など患者さんが心地よいと感じるケアを通して、患者さんの傍らにいる時間を持つことができます。バイオグラフィーワークの手法を使ってご自身の人生の振り返りをすることもできます。亡くなるときにいい人生だったと思えるようなバックアップができればいいなと思います。

 

聞き手: 気軽に病院の先生と話せる環境などあるといいでしょうね。

 

浦尾先生:気軽に相談に乗れますが、やはり確定診断は既に専門施設でしてもらっていなけらばなりません。診断がついたあとさあどうしようか、というときに助けになりますよ、という立ち位置です。

まだここでの治療を受けるかどうか、決めかねているけど、と言う方には、ここで提供できる可能性のある事柄等の詳細をゆっくりご説明します。ここでは受身の治療より、自分で決めて自分で行わなければならない作業も沢山あります。

まずはここで治療をするというのも自分で決めなければなりません。西洋医学のような高額医療にはなりませんが、自費診療であることや、自分をしっかり見つめながら、自分の内面にも目を向けていこうという意志も必要になってきますので。

治療としてはミステル療法を中心に、オイリュトミーやリズミックマッサージや芸術療法などアントロポゾフィーの手法がいろいろあるけれども、治療の手技だけでなく、私たちとの毎回のセッションを通し、またバイオグラフィーワークなどを通して今まで意識してこなかった自分の内面に目を向け、今後どうなっていきたいのかなどを考えられる環境を作ることが我々に求められる重要なことだと思っています。自分の心や体のことを考える学びの場でもあります。

病院では、こういう状態なので手術しましょう、とか手術じゃなく化学療法・放射線治療がいいだろう等治療の方向性は医療者側が決めて進めがちです。専門的な医学知識や手法は医師が専門かもしれません。でも患者さんについて最もよく知っているのは患者さん自身であり、その内側には自身を治癒に向かわせようとする大きな力が内蔵されているのです。その力を十分に引き出し、今の最先端の西洋医学的な治療を更に有効に利用することが最善だと思います。

治療には医療者側の見る外からの視点と同時に、患者さん自身の内からの視点の両者が必要です。

 

【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その1)
【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その2)
【対談】「緩和ケアで生きる希望を」浦尾弥須子(その3)

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